音信不通ですみませんでした↓↓↓もりた

それは、くだものだった。
私の大好きな種類のくだもの。それは、例えば桃だった。
例えば、机の上に、ただ置いてある、ほんと、そっけなく。


だから、ナイフもホークも使わず、冷やしもせず、ただ素手で食べた。そのまま食べてしまった。


それなのに―
それなのに、なんで、優しかったのだろうと思う。
世界一甘いんじゃないか、これ。
全くの不意打ちだ。ひどい、これは今の私にはとても、じゃないけど甘すぎる。


伝う。そのたっぷりの汁はほぼ空気と同じ温度で顎を伝い、落ち、机に染みる。ポタポタ、ポタポタポタポタ。

強く握っていたので、甘美な汁は手首も通って、侵入しようとして、それは優しい、かったので、急いで舐めて阻止して、だって、残したくないって、味は、肌の濃さと混ざって得てしてハンザイテキだった。


大丈夫だと思ったのに。
こんなのってないだって、そんなはずじゃない。誰も予想できないほど、そうだ、だから私にわかるはずなんかなかった。

ほんとうにおかしなことだけど、甘くなければいいと思ってた。予想とかじゃなくて、そう期待してたと言ってもいいかもしれない。ただ甘くなければ、こんな。



食べ始めてから、ずっと息をしていないことに気がついたので、私はあわてて空気を吸う。生暖かいへばりつくような湿度、同時に喉のトンネルを甘さもどうどう流れる。喉はその甘さを感じ取ることが出来ないはずなのに、とても耐えられなかったので、むせてしまった。

目の前がぐるぐるする。
しばらくただ下を向いて肩で息をしていた。



その後、泣くときと同じ温度で、私は笑っていた、口をぎゅっと、していた。

もうこれと同じ瞬間はないし、この嬉しさもないから、ひどく悲しい。

だから、泣きたくなったでも、笑った。

だけど、それって同じことだと思う、だってどっちもこんなに心ユラメキを表現すると言う面においては何も変わらない。

泣くのと、真剣に微笑むのは、きっと同じ感情、だ。

それを放出するか、食い止めるかの点でちがいがあるだけで。


半分ほど残っていたそれを、やけになって食べきった。もう全然食べられるような気じゃなかったのだけど、なんとなく残しておけない気がしていた。きちんと葬らないといけない気がして。だから強引に押し込んだ。それはパンパンになった胸を、やっぱり、うまく、通らない。


もう残ったのは手にへばりついた苦い皮だけで、いやでいやで。